今年の何冊か。

 えー、予想していた以上に時間なくなってきたので今年読んだ/見たフィクションの中からいくつか見繕います。


「ひとりっ子」グレッグ・イーガン

 イーガン、マジ容赦ない。ATフィールドが溶け合う過程を丹念に書いていくのが面白い。
 ところで、どうして「毒舌の才媛のお嬢さんと冴えない僕」がメインキャラとして何度も出てきますか? 先生ッッ! シドニーの大学生時代に一体、何があったんですかっっ!? 
 収録作では「ルミナス」が一等、好み。光で出来たコンピュータとかカッコよすぎます。
 メシも食わずに読め。
 

仮面ライダー555」

 結局、一年かかって見終わりました。傑作。
 知る限り、ライダーシリーズ中、最高にかっこよかった悪役はシャドームーンだと思うのですが、オルフェノクも勝るとも劣らずカッコいい。君は信じるもののために死ねるか? という話。
 序盤三話までひたすらタルイんですが、四話から大化け、一気に消化してしまうのがもったいなくて、チビチビ見てたぐらい。ゼーガペインといい、序盤がもたついている=大ハマリの可能性あり、ということなのかもしれません。徹夜してでも見るとよいです。


「VERSION」 坂口尚

 坂口尚は傑作「石の花」(「誰も本当の平和なんて経験したことない」は名言だと思う)のイメージがあって、どうにも手塚治虫チックな印象を受けてきたんですが、この人は手塚治虫が嫉妬したという大友克洋でもあったとは。
 平たくいうと、生命工学をテーマにした「AKIRA」。
 しかし、単なる剽窃に終わらせるにはこれはあまりにも面白すぎる。リアルタッチの乾いた筆致が描く絵は「枯れ果てる世界」を上手く切り出していて、あらたか進化していく生命とその周りでぐるぐる回る旧世代をどこまでも冷徹に描いている。「石の花」で見られた残酷さはここでも生きていました。親を売ってでも、買えばいいです。


ジャイアントロボ ―地球の燃え尽きる日―」

 バカは素晴らしい。なぜバカが素晴らしいか。10の力で済む話を100の渾身の一撃でムチャクチャにしてしまうからです。バカだから。
 濃縮200%の原液を口に流し込まれた気分です。毎号、見所があってたまったもんじゃありませんよ。衝撃のアルベルトの登場シーンなんて「やられたっ! 完璧にOVAのキャラをコントロールしきった一撃だ!」と感心させられましたね。
 一つ苦言を申し上げれば、この漫画を楽しむには、OVA「ジャイアントロボ 地球が静止する日」を見ていなければならない、ということなので、未見の方はゴッドハンドに贄を捧げてでも見るべきだと思います。


「Vフォーヴェンデッタ

 これは、
 「オイラ、女の子にはモテたことネ。なぜならば窮屈なこの世界がブサイクなオイラに優しくないからだっ! つーか、ホモとかレズとか異教徒とか弾圧すんなよ! 弾圧しなけりゃ誰かがオイラに優しくしてくれるかもしれないのに! 
 …ゆ、許せん。
 ……絶対に許せんぞ!
 だから、オイラはこの世界を正す! 自由の名の下に!!」
 という童貞力の高まった作品と見るのか、
 マトリックスで放棄してしまったウォシャ兄弟の「選択」の物語を脚本を委ねたものとして見るのかは、まあ、見る人の勝手ですが、非常にいい映画でした。
 「革命」といういまや幻想を現実からはみ出しすぎず、しかし、あくまでもフィクションとして楽しむことのできる素晴らしい娯楽映画でした。友人から財布をギってでもDVDを買うべきです。


「大聖堂」 ケン・フォレット

 もう一つの今年読んだ最良の小説である「グラン・ヴァカンス」の対極にあるような作品。
 どうしようもなく泥臭く、汗臭い無数の人物が交錯して、自分の欲望をつき合わせてしのぎを削る。群像劇として圧倒的なクオリティで、素晴らしい劇だったと思います。


「グラン・ヴァカンス」 飛隆浩

 物語、未だ終わらず。
 良い物語は作者と読者に福音をもたらすものですが、まるでガラスのように繊細で、打てばいい音で鳴いて、崩れるSFとはなんと楽しいものでしょうか。すでに挙げた「大聖堂」とともに、内臓を売ってでも新品で十冊買って、九冊燃やすべき。


「漫画版 皇国の守護者」 伊藤悠

 幸福な漫画化。原作の刺々しい皮肉を漫画独特のユーモアに変えて見事に成功している。物語が素晴らしいのは当然のこととして、その咀嚼と消化があまりにも丁寧。キレイなゲロはこの世に実在するのです。
 この漫画を読みたいひとは、原作者の首筋に刃を突きつけて「さっさと皇国とか信長とか地球連邦とかの続きを書け。後、遥かなる星をさっさと復刊しろ」と脅してから、読むといいです。


「オルタード・カーボン」 リチャード・モーガン

 間違ったジャパネスクとサイバーパンクはよく似合う。ディック風のぐらぐら歪んだ現実認識とハードボイルドとのハイブリッド。イーガンが精密なディテールに依存するSF作家だとすると、リチャード・モーガンはおおらかなディテールで鋭く尖った物語をキレイに包み込む作家。エログロだけど一本骨の通ったストーリーが素晴らしい。
 続編が発売されるかどうか微妙なんですけど、まあまあキレイに完結してるので、これで満足です。もう僕は手に入れちゃったので、2700円のハードカバーが高いって人は、文庫落ちしてから買えばいいんじゃないですかね? あんまり他人にはお勧めしない。そんな作品。


「DAMONS」 米原 秀幸

 米原秀幸はとにかく「未知なもの」を書く技術が素晴らしい。まだ見ぬものを求めて海賊となった少年が主人公の「フルアヘッド・ココ」でもそうだったし、人体の極限的な肉体の行使者=超人が主人公だった「SWITCH」でも「今まで見たこともないスゴイもの」を書き続けてきた。
 だから、僕がずっと期待していたのは、「この人が超能力を書いたらどうなるか?」だった。そして、この作品をもって、ようやく願いが叶いました。最高です。
 ゼスモスやナノテクノロジーといった「目に見えないもの」を「目に見えるもの」として置き換えていくのがすごい。まだまだ物語は半分で、恐らくラスト以外を原作から逸脱していくこの作品がこれからどうなっていくのか、ものすごく楽しみです。


ゼーガペイン

 もはやエンディングテーマを聞くだけで泣けます。「舞浜の空は青いか」というサブタイを目にするだけで涙腺が緩みます。それほどまでに直撃でした。2006年はお前のものだ!! もってけ、ドロボー!!!
 確かに序盤はタルい。四話ぐらいまでどうしようかと思った。だけど、我慢して見てくれ。面白くなるから、絶対! 保証するって。DVDは何に換えても買うがよいです。 
 それにしても伊東岳彦にハズレなし。次の企画も期待してます。