知り合いらと『最近の2ch』についてだらだら話す。

A「2chの価値ってどこにあると思う?」
B「そりゃやっぱり匿名を活かした生の意見の応酬じゃないの? あそこには色んな意見があるじゃん」
C「いや、それがそうでもないんじゃない? 送信された大規模なデータに一度、誘導されると、一定量の情報フローが発生して、逆向きの意見は抹殺される傾向もあると思う」
B「そりゃ水は低きに流れ、だからだろ。基本的にあそこは感情の渦みたいなもんだから、そういう風になるところはあるだろうけど、それだけってわけじゃないはずだ」
A「ある個人をテーマにしたスレッドなんかはひどいよ。アンチと信者が入り乱れて、合戦さながら。隊伍を組んで殴り合いってーの? 特に攻める側になるアンチが火を噴くとまさに怒濤」
B「ネットスクラム、だっけ? IT関係の弁護士がアンチに食らわされて作った言葉」
A「コメントスクラムね。どうかな。ああいうのはまた違う気がする。っていうのは、スクラムっていうぐらいだから、横の連帯感だけじゃなく、戦術的な視点あっての行為だろ? 2ch上のデータのやりとりはそうじゃなくて、もっと共感的な作用でしかないと思う。例えば、『韓国ウゼー』とか『○○ウゼー』といったら、そこに誘導させる大規模データ、それは字面通りのデータじゃなくて、例えば『こいつこんなヘンなことやってるよー、頭悪ー!』だとか『うわー、こいつマジダリーよ。死んじゃえ』みたいな大義名分みたいなものをくっつけて、送信すると受信した側が増幅してしまって、いわゆる『祭り』だとかが発生するんじゃないかな」
B「でも、基本的に祭りが発生するのは社会的な地位があるやつがそれにそぐわない行為をしたらってのが多くねえか? トンチンカンな主張をしてるだとか。でも、その祭りにしたって、それ以外にも例があるだろ」
C「個人サイトへのネットウォッチ行為なんかがそれだよね。ああいうのは基本的に私怨じみたものになってくるから、根底にある発想が幼稚だし面と向かって話しあわないから、好き嫌いの問題に終始する。で、無責任だから過激なほうがウケるってんで、アンチの意見が大量に噴出する。なんていうか学校的だよな」
B「それはでも、どの組織にもあるジメジメした部分だろ」
C「そりゃそうだけどさぁ。いや、会社ならまだ逃げようもあるけど、学校だとそうもいかないんじゃないか? だって、ガキには自分のリスクマネージメントもできないし、教室にある問題ってのは、打算じゃなくて生理的な問題からくる嫌悪感だろ」
B「しかし、そうなるとだな。好き嫌いってのは何から来るんだよ、って話になるぞ。そこまで立ち戻って話をするのか?」
C「うーん……そうだなぁ」
A「ネットワークって、理念上は開かれたものであるわけなんだけども、システムを使うのは結局、人間だから、どうしても対象を矮小化してしまうよね。なんで好きか嫌いなのかを言語化しない。まあ、言ってしまえばこの幼児性は匿名の悪い部分だと思うな。特に「あいつは気に食わないだよ!」で始まる陰口的な言葉には責任を背負う部分がまるでないから、どうしても過激になりやすいし、配慮が足らない。相手の気持ちなんて思いやる必要がないって感覚的に正当化するから、コミュニケーションとして成立していない」
B「いらない情報として切り捨てればどうってことないんだろうけど、人間なかなかそうもいかないしな。でも、度が過ぎた罵倒には同じ匿名者の修正が入るだろ。そりゃあるいは、当事者からの反論もあるだろうし」
C「そんなん引き受ける気がないに決まってんじゃん。刹那的な発想なんだから。2chが嫌われる最大の理由はそこだよ。結局のところ、個人をテーマにしたスレッドのなかで脊髄反射なやりとりが増えるのは、そこに感情がからみすぎるからだろ。で、罵られた相手もイチャモンつけられて面白いはずがないから、スレッドだけの問題のはずが、対象を矮小化して2ch全体の問題に摩り替えてしまう。で、関係なかった2chの人間が増幅してさらに問題が膨らむ。そのうちどっちも冷めてそっぽを向くが、しがらみはできあがる。この繰り返しじゃない?」
B「それはそうだろうけど、お前の言ってるのも論理のすり替えだろ。個人をテーマにしたスレッドがそうであっても、例えば、作品スレッドなんかは必ずしもそうとは限らないと思うぞ」
A「その辺りは、客観的な事実が占めるウェイトで変わるんじゃない? まあ、最近の2chの話に戻すと、棲み分けが明確になってると思うな。脊髄反射の場所と議論の場所がはっきりと分かれてきている気がする。個人に焦点を当てる類のスレッドはほとんどが刹那的な感情をふりかざしたやりとりであるし、客観的な事実に対するスレッドに関しては、議論が成立しているほうだと思う」
C「でも、目につくのは前者だよな。ネガティヴで語られるのは間違いなくそっちだと思う」
A「そりゃ、分かりやすいからね。対象を矮小化するのは何も2chの住人だけじゃないだろうし、客観的な冷静な応酬が必ずしも続くとは限らない。評論家だって論を競わせていると、キレて自制心を失うことがままあるんだ。素人なら何を言わんか、だよ」
B「じゃあ、こうやって話しているおれらも矮小化しすぎてんじゃねえの? 明らかに二元論だろ。話してる内容は」
C「おお、構造主義的発想だ。地道な科学的思考の勝利です。デリダ先生!」
B「お前な、もうこの話に飽きてきてるんだろ?(苦笑」
C「だってさー、価値の相対化なんざ完全な第三者しかできんだろ。一定のスタンスに位置することを政治的であるって言うなら、あらゆる発言が政治的発言になるってことじゃない? ライトノベルのヒッキー的な主人公じゃあるまいし」
A「まあ、細かくやっていくとそれだけで本が書けるよ、きっと。そこまで暇じゃないし、それこそいらない情報だと思うから切り捨ててしまおう」
B「じゃあ、テーマは『最近の2ch』じゃなくて、なんだろね? コメントスクラムの真実! とか?(笑」
A「うーん……多層社会に対する構造主義的アプローチ! とか?(笑」
C「それよりメシ食いにいこうぜ。腹減った」


などと。