「ヒャッハー! クラウザーさんの新しい必殺技の滅多切り包丁だーーー! 殺人シェフを殺して奥義を奪ったってのは本当だったんだーーー!」


 インサイドマンを見て、テーマソングとして使われた「chiyachiya」が欲しくなったり、久しぶりにグレイク・ディビッドやらウィーザーを聞いて学生時代を思い出したくなったので、近所のツタヤに行きました。


 そこで流れている有線の曲に足をとられました。
 工藤慎太郎という人の「シェフ」という歌だそうです。
 個人的には「アヒルのワルツ」と同じぐらい趣味が合わないし、DMCの社長が聞いたら「なに、それ、キモイ」ってきっと言いそうなノリで、要するに根岸くんが感銘うけてそうな曲調。
 であるのに、耳を傾けて歌詞を聴いたのは、聞けば聞くほどにDMCの外伝「放浪日記〜〜『神曲』誕生編〜〜」がナチュラルに浮かび上がってくるからです。以下、思いつくままにあらましなどを。




「例によって例のような活躍っぷりで、次々と伝説を作っていくクラウザー=根岸だったが、次第にエスカレートする事務所やファンの要求に非常なストレスを感じ、ある日、彼は発作的に行方を晦ましてしまう。(書置きには「あまりに春だから」とだけ)
 ちなみに、この失踪について、デスレコーズは「クラウザーは信者どものあまりの低レベルさに呆れて、地獄に引きこもった。次にやってくるときにはお前らを処刑する」とアナウンスするのだが、それはまた別の話。
 さて、浮浪者として菓子パン一個の生活を余儀なくされていた根岸であるが、とうとう体力も尽きて、行き倒れてしまう。
 根岸が意識を失ったのは目黒の小さなフランス料理店『エヌアペ』の入り口前であり、気のいいオーナーシェフに拾われた彼は、住み込みのアルバイトをさせてもらうことになる。
 ちなみに同時刻、DMCライブはジャキのしょっぱいアドリブと資本主義の豚の煮え切らないプレイによって大失敗をするのだが、それはまた別の話。

 
 さて、仕事もそこそこ慣れてきた根岸。ある時、自分の悩みと夢をシェフに打ち明ける。『自分の音楽がやりたいんです』と。
 それを笑いもせず、真摯に受け止めてくれたシェフ。彼に向かって、根岸は閉店後の静かな暗い店内で、自分の音楽を弾き語って見せるのだった。すると、シェフはなんのてらいもなく、「いい曲だ」といい、「夢を諦めちゃいけない」と励ましてくれるのだった。
 ここで働くことこそが自分の夢のための本当の第一歩だと確信した根岸は、「一生懸命、がんばります!」と感無量の涙を流すのだった。
 根岸宗一は、ようやく自分の足がかりを掴んだのである。

 しかし、ヨハネ=クラウザー2世としての運命が、こんな甘っちょろいビルドゥンクスロマンなど許容するはずもなく、ある日、何の前触れもなくDMC信者が大挙して『エヌアペ』に押し寄せる。


 信者たちは、自らが「低レベルだ」としてクラウザーに見捨てられたのは、自分のたちの教養のなさに由来するものだと考え、そこで世に言う「上流の味」であるところのフランス料理などを食してみれば、レベルアップして、敬愛するクラウザーが必ずや自分たちの前に召喚される、という超理論を展開していた。
 彼らによって貸切状態となったフランス料理店、「なんだ〜、この料理。ちょっとしか皿に載ってねえじゃねえか!」などと暴言を吐きまくり、シェフが精神的に参っていく時、根岸の中で封印されていたクラウザー魂が爆発し、手近にあった食材でメイクアップを済ませると、彼は信者たちの前に出現する。


 そう! 「真・ヨハネ=クラウザー2世」として。ニュー新譜「神曲」を携えて!
 そして、今宵この時、目黒の小さなフランス料理店は、クラウザーさん復活のソロライブがゲリラ的に決行された血と狂乱の舞台と化したのだ! 
 
 
 翌日の朝、シェフに送り出される根岸。
「ネギくん、君は君の音楽を続けるんだ。頑張りなさい」と疲れきった笑顔を浮かべるシェフに頭を下げて、根岸は立ち去っていった。自分が今度の経験で一回り大きくなったと感じながら……


 ちなみにその日の夜、行われたDMCライブは記念的な大盛況で、社長は満足したので、失踪問題に関してはうやむやになったという。
 なお、フランス料理店、「エヌアペ」は「クラウザー再降臨の地」としてDMC信者御用達の店になるのだが、それはまた別の話。
 
 」