「鴉-KARAS」ブルーレイ・フルエピソード・エディションを買った。

 この作品の第一話の冒頭10分を見た時、衝撃を受けた。アニメでこんな絵が見られるとは、と。
 そして、エヴァウルトラマンを再生産的な特撮とはまた違う角度で照射することで、現代的なスピードでもってアニメに置換して描いたのと同じように、仮面ライダーをアニメで描こうとしているこの作品は間違いなく次世代のアニメの本流の一つになるだろう、と予感した。
 ま、ぜんぜん違う結果に終わったんだけどね。

  • 感想

「は、鼻血が出るぜ! こんなん待ってたんだ!」(一話アバン終了直後、テンションあがりすぎて)
「おいおいおい、かっこよすぎるだろ」(第二話終了時、再びテンションあがりすぎて)
「アレ? まとめに入ってる? おもしろくなくなってるし、なにか、変、だ・・・ぞ」(第三話終了時、戸惑いながら)
「ば、バカな・・・ダサすぎる」(第4話最終シーンを見て)
「お願いしますから、80年代「ウネウネした機械の触手と合体したラスボス」はやめてください!」(第五話を見終わった直後の友人と)


 タツノコプロの40周年記念で始まったこの作品。はっきり言って問題点はある。
 まず、シナリオが雑だ。
 脚本は、ちょうどこの作品が出始めた頃、「スピードグラファー*1でものすげー面白い現代の暗黒神話を描いていた吉田伸。
 であるからには、マッドでありつつ、手堅くまとめてくるだろうと思いきや、オカルトに狂ったのか狂わされたのか、結論から言って、「お前は小中千昭か!」状態。つまり、シナリオが非常におかしなことになった。
 「鴉」は大きく分けて三つのラインから成り立つ物語となっており、
1,鴉=オトハの自分探し(典型的オイディプスバットマン仮面ライダータツノコヒーローの仮面のはめこみ)
2,鵺←→みくらの対決(個人的恩讐と全体的な信念の対立)
3,1,2に巻き込まれるマージナルな一般人たち
 そのどれもが中途半端で。かつ有機的に連動しておらず、最後半で1と2、1と3がそれぞれシナリオ上の都合として合流するのですが、本当に都合としての流れ作業となっており、まあ、あんまり上等なモンじゃないですわな。
 基本的に何が原因か考えると、普遍的な神話の構造*2をシナリオにはめ込もうとしすぎたためであり、主人公がオイディプスである理由や、廻向、みくら、鵺の関係性ともにロールモデルとしての機能しか用意されておらず、その中で「なんかいろいろあったんじゃろーなー」という窺い知れなさが投げやりにしか共感を呼ばないし、
 妖怪←→人間の持ちつ持たれつつな問題定義が「妖怪は人間がなくては生きていけないんだよ」「人間は妖怪がいないと心が豊かにならないんだよ」というオカルト的には常道*3でありながら、ヤバすぎる思想*4から踏み出すイベントもほぼないので、一般人も妖怪もエモい反応をするだけで、妖怪刑事や犠牲者である娘、「政治という人の世」に身を置きながら「異界」に巻き込まれ、結局そこからも離れていく青年の物語が現代的な要素となりえず、そのまま単なる供物でしかないなど、本筋が異常に飛び飛びになったり、キャラにカメラが全然寄り添わないで、イベント単位でしか語れない、ダメダメっぷりを披露することになったのだろうなーと。


 デザインは、基本的に「S.I.C」シリーズっぽくかっこいいんですが、中にはどうしてこうなった、というモノがちらほらあって、一番キッツイのは、5話からの廻向の意匠周り。
 あれはつらい。まいったを言わせてくれない。
 正直、正視できなかった。タツノコ悪党ラインを踏襲したのかもしれませんが、80年代「ウネウネした機械の触手と合体したゲームのラスボス」みたいなのはやめてください! マジでマジで。「アップルシード」ぐらいつらかったです。久しぶりに、ちょっと泣きそうになりました。

 
 演技も・・・まあ、ねえ。主演コンビが眠たい演技だったのがねえ・・・(何かを彷徨う言葉)
 あ、でも、渋谷飛鳥演じるヒナルはよかった。デビルマンのミーコといい、あのコは上手いよね(微妙なフォロー)
 あと、藤原啓治は素晴らしいですね。鵺はいいキャラです。

 と、以上のような「絶対に金を出したくない要素」が揃っているにも関わらず、持ってるんですよね。DVD初回限定版を全巻と今回のブルーレイ。
 はっきり言って、アクションと作画のクオリティは今見ても凄まじく、ていうか、現行品の等身大ヒーロー物としては極北であり、5話のビル爆破風景や、やたら美しい色合いのエフェクト周り。面取りして陰影の深いCG着ぐるみなどBDで見ていてますます目が豊かになりまくるので、お前らも是非買うべきですよと。

*1:GONZOの2005年制作アニメ。作画マニア的にはボロボロだが(色んな意味で)味のある絵とへっぽこ演出、マッドなキャラ造けいと世界観、秀逸なシナリオでボンクラ魂を直撃した作品

*2:DVDの初回限定版ブックレットで監督自身も「トラディショナルなヒーローモノを目指す」と発言してた

*3:なぜかオカルトはこういうバランス理論が好きな印象がある

*4:スピリチャル方面で山ほどある考え方