君ら、僕たち、テロとおんば傘の下

 金曜日に仕事上のクレーム処理のため、羽田空港に行くことになった。
 というのも工場が客先に送るべき修理用部材を間違ってしまい、ユーザさんが激怒していたためだ。その前日、販売先からのお怒りを受けながら、すいませんすいません。明日午前中にお伺いしますので、とその場をとりあえず収め、電話を切って、ああー、超めんどくせ、ありえなくね? なんで間違うの? つか、なんで手配を間違ったわけじゃないオレが謝ってるの? といつもの営業メェンの悲哀を感じつつ肩を落としていると、端で聞いていた同僚が一言。
「明日、マジで羽田空港行くの?」
「はあ、行きますけど」
「いつも通り車で?」
「ええ、車の方がラクだし」
そこで上司も、
「やめとけ。明日だけは」
 WHY? なんでかしらん、と思いつつ、その時まで全然何のことやらよく分からなかったのですが、昼頃のニュース見てようやく、「うおおおい! 羽田にオバマ大統領来る日かよ!」
 なんてこった。信じられない。
 しかも、その次の日には実家に帰るため、もう一回羽田空港に行くという、なんという、なんと・・・(最初どうして金曜日に行こうと考えたのかというと、ついでに帰省分のチケットを買いに行こうという下心があったからだという)

 んで、言ってしまった手前、こりゃイヤも応も、クソもミソもねえわなと羽田空港へ。
 当日、朝九時。さすがに車はやばそうだったので、電車に乗ってガタゴトと。
 というか、東京駅辺りからすでに警察がちょろちょろ立っており、先行きが不安になる。
 大丈夫かね−、わし、テロ屋と間違われたりせんだろうか。
 だって、「キーチVS」の単行本買ってるしさー。後、カバンの中にはクランシーの本が何冊か、特に「日米開戦」が放り込んだままであることにはたと気づいて、「はあっ、なんてことを。できすぎているこの事態。もしやこれはオレを陥れんとする陰謀か。陰謀なのか」と戦慄しつつ、「いっそ、このまま空港で飛行機を乗っ取って、国会議事堂に突っ込んでしまおうかしら」「事業仕分けるぞオラー! 選別じゃ。選別じゃ。生き残ったやつだけが正義ナンジャー−!」とか不穏な考えがよぎりはじめたところで、「あ、すいません。乗り換えます。降りまーす」
 それから浜松町経由でモノレール乗って、羽田空港へ。
 ところで、関係あるようでない話なんだけど、あのモノレール乗ってるとなんかパトレイバーの気分になるよね。バビロン計画っていうかさ。ああ、これもテロ屋の話が・・・。
 で、空港着いたら警察官がわっさわっさいるのね。ご苦労なこった。
 地図見ると、客先は空港内のちょっとややこしいところにあるらしく、全然見当つかないから、とりあえず近くの警備員に道聞こうとしたら、案の定、間違って警察官に声かけてやんの。
 そしたら。「なにか?」みたいな感じでそれこそ足下から頭の上まで見られてさ、うわー、ヤッチッマッターですよ。
「あー、道分かります? ●●●さんとこに行きたいんですけど」
「何の用で?」いやいや、あんた関係ねーやん。いや、この場合、あんのか? どうだろ、分からん。
「修理しないといけないものがありまして、それで直接お伺いするようなってまして」
 すると、一瞬の沈黙。
 当然というかなんというか、カバンに目をやる警察官。その胡乱げな視線。
 どうしよう開けろと言われたら? 中には「日米開戦」というこの状況下ではあまりにおもしろすぎる書籍が入っている。それに修理道具として工具も持ち込んである。
「このドライバーを何に使うのかね?」
「このレンチがどうして必要なんだ?」
「それはね、お前のケツの穴をダイするためさーーー!」
 ああ、いかんいかん、どうしても考えがテロ屋? の方に向いている。
 そんな具合の妙な緊張感の後、警察官はふんっと鼻を鳴らすと、
「ああ、そう。ウチら分からないから、ここの人に聞いてね」
「そっすか。どもです」
 改めて警備員に聞くとターミナルを間違っていたらしく、しょうがないので空港内バスに乗る。
 ・・・うわ、赤ランプ灯りすぎだろ。
 なんかねー、やばい雰囲気が出過ぎですよ。踊る大捜査線みたいに「さも大事件です」みたく絵的にうるさくないのが、逆にリアル。
 パトやら護送車やら覆面がピッカピカまばらにいるのが、ちょうど低いところに見えたので、なんでそこに配置してるのかってちょっと考えると、ほんとに要所要所に仕掛けてるのが分かって、うわー、おっかねー。マジハンパねーな国家権力、みたいな。
 でも、一番リアルだったのは、なんかやる気なさそうなおっちゃんが警備員か警察か分からないけど、腕章つけて制服でダルそうに自転車で坂道のぼってんのね。それも帰りのバスでも目撃したから、巡回してんだろーね。
 もう、ほんとやりたくねー、みたいな雰囲気がにじみでてて、具体的に言うと、自転車漕ぐことが目的化してて、周りとか全然みてねーの。前だけ見てる。お前それ警らの意味ないやんけ、とか、きっと普段なら絶対やってないことをやらされてる感がリアルすぎて、うわー、こえー、超こえー。ぱっと見スキだらけなのもイヤすぎるー。

 で、昼前、まあまあなんとかクレーム処理終わらせて、色々見れて面白かったので帰りもバスに乗ったんですよ。
 そしたら、空港ビル内にお偉いさんとか報道陣とかが出入りするらしい駐車スペースが見えて、黒塗りのリムジンとかベンツのマイバッハとかレクサスとか、傷一つなさそうなてっかてかの高級車が鎮座されておられて、こちとら云百円の部材のことで、しこたま怒られて、頭下げ下げやってんのに、何なのこの違い。
 思わず「そりゃテロも起こるよなー」とかしみじみ実感しながら、明日の分のチケット買って、官憲がわらわら増え始めて緊張感の高まる空港を後にしましたとさ。


 そうそう、大統領見なかったの? と言われましたが、見ませんでした。そんな暇があるのは、物見高い暇人だけだし、そんな余裕が許されるなら、忙しくていいからもっと給料あげてくれよ、まったくまったく。