[考察]ツンデレの新機軸を考えてみませんか?

登場人物

いつものやつら(A・B・C)




○A宅・コタツ・深夜二時


 三者三様にぐったりしつつ、


A「年明けてマジだりぃっす」
B「眠すぎる。深夜バイト死ぬ。ダイアナザデイ」


 C、携帯をちらちら見ながら、


C「担当からの電話が怖い。先月は結局、二本ブッチしたからなあ」
A「てめえ、自由職。死ね。マジ死ね。なんだ、そのいい加減さ加減」
B「そうだ。何が小説家だ。こないだのアレ読んだぞ。なんだあの萌え萌えな女の子が殺しあう殺伐とした作品。ボケか。趣味全開じゃねえか。癒し系書け。癒し系。エンヤかけまくれ。ボケ」


 さすがのCもこの吉野家的時空間には戦慄して、 


C「新年明けたばっかなのに、この荒み様……今年もなんだか地獄の様相だな。おい」
A・B「うるせえ。死ね。サル」
A「このデミウルゴスめっ。背徳者め。異端の天主め。○先生(Cの恩師)にしばいてもらえ」
C「センセはかんけーねーだろ。センセは」
A[もーどーでもいいからー、お前そろそろツンデレ書けよー」
B「そうだ。でも、もうそろそろツンデレ飽きたんだよー。だから、新機軸うちだせよー。プロなんだろー」


 その軽い調子。軽々しい物言いにさすがに辟易として、C。


C「んなこと言われてもなー。新しい萌えって何があるよ?」
A「クーデレ?」
B「却下。奈須きのこの作品に出てくる解説キャラみたいでつまらん。あれって要するに女京極堂じゃん」
C「じゃあ、黒デレ? だっけ?」
B「ヤンデレな。あれも却下。あんなん単なるサイコさんじゃん。サイコさんは怖いんだよー。なんせ論理が飛躍するからな。私は爆弾魔、だから私はかわいい。みたいに。ぶっちゃけぶっちゃけー」


 あきらかに仕事をやめてからのこの数ヶ月で精神を病んだとしか思えないBの言動に、AとC、額をつき合わせて。


C「なあ。Bのやつ。明らかに頭がおかしいぞ」
A「……お前のその端的な物言いがオレは恐ろしいよ」
B[新しい萌えをー。革命をー」
 

 悲しいほどに病的なB。C,ためいきをついて


C「オーケィ、スティーブ。じゃあ、こんなんはどうだい? 名づけてフランケンシュタイン・萌え。略してフラ萌えだ」
A「そのあまりにセンスのないネーミングはともかくとして」
B「なんじゃ、そら]
C「いいか。つまり、従来の単相としての萌えではなく、位相転移するんだ。つまり、件のデレ概念においてはツンデレ→クーデレ→黒デレといった具合にな」
B「ほほう。具体的に聞こうか」
C「よし。具体的に例示しよう」


 C曰く、


C「ある女性キャラがいる。表記をオンとしよう」
A「なんでオン?」
C「怨念の怨だからだ。後でその意味は分かる……で、そのオンは、物語の主人公オフに懸想するわけだが、」
B「なぜオフ……」
A「別にCLAMPっぽいネーミングでもいいんだぞ? やたらむずかしい漢字でコテコテ塗った名前。中学生センスに満ち満ちた感じのやつ。銀河万丈とか」
B「いや、それ、声優の名前だから」
C「今のは冗談だ。銀河万丈ってかっこいいよな」


 A,B、辟易として。


A「どーでもいーから、話進めろよ」
B「そーだ。前置きが長い話は嫌われるんだぞ」


 C、舌打ち。


C「……で、そのオンは最初、オフが好きで好きでたまらないわけだが、過去にトラウマを抱えていて、素直になれないわけだ」
A「ははあ。まあ、ツンデレか」
C「で、なんやかんやあって、よーやく素直になったオンとオフ、満を持して、デレデレ期突入。オンはものすごく率直にオフに好き好き言うわけだ」
B「クーデレね。つーことはなんだ。その、オンはクールな知的美女なわけか」
C「うん、まあ、そうだな。というよりは、アレだ。衆人の目前では、クーデレ。人前でも冷静に好きだ、愛している言うわけだ。で、二人きりになると、ふにゃーとなるわけよ」
B「あー、それはちょっとアリだな。あれだろ。最初は意固地なビショージョが、デレデレとなったら、地の部分、甘えたい症候群が発病して激しくデレるわけだな。ちょっといい。孤高なのが二人だけの時になびいてくるってのは」
A「んで、そっから黒化するってのは?」
C「ああ、ここからは簡単だ。トラウマをつっついて、オンのスイッチ起動。怨みの怨となってオフおよびその周囲をつけねらうようになる。サークルクラッシャー・マスィーン爆誕だ」


 A,B、あまりの展開に絶句。しばし沈黙して、遠慮がちにAが、


A「な、なして?」
C「それはもう、アレだ。オンが最初からイカレちまってたとしか言いようがない。狂人の論理を常人が果たして理解できるかね? ちなみに、オレはAIRや零に出てくるヒロインは嫌いだ。あいつらのメンタリティがまったく理解できないからな。まあ、この場合、電波ちゃんで収めてもそれはそれで好きな人にはたまらんだろうが、今回はデレ位相というコンセプトがあるから、嫉妬に狂ったとかがベターかもしれん。第三者、これも美少女だ、に主人公がベタベタしているのを、衆人の前では持ち前のクールさで軽く流し、二人きりの時もその不安をひた隠してデレデレ目一杯甘える。しかし、所詮は人間よ。あるいは女の恐ろしさかもしれないが、とにかくオンはそのうち狂気に走り、第三者をそれはもう悪辣な手段で苛め抜く」
B「ああ、そこで、インテリって部分が効いて来るわけか」
C「そうだ。あくまでクールに、主人公にデレデレとしながら、『私を、私だけを愛してちょーだい』と周囲をあらゆる手段で隔絶しはじめるわけだ。で、愛してる愛しているといって、オンはオフを監禁、足の腱を切り、外へ出れなくする」
A「ミ、ミザリー……」
B「お、おっかねえ……インテリ電波女の狂気やべー」
C「そして、ついにオンとオフは対峙する。気持ちをぶつけあい、もはやのっぴきさしならないところまでやってきた瞬間、空間が断裂し、時空はねじまがり、宇宙が創生される。そして、オンが言うわけだ。『ああ、私達は今、世界の中心で愛を叫んでいるわ!』と」


 沈黙。そして、おずおずとAとB、口を開く。


A・B「なんで最後は石川賢になるんだ?」


 C、気まずそうに、


C「いや、もうなんかオチとか考えるの、めんどくさくって」
A「んだよー! オチつけろよー」
B「終わりよければすべてよしって言葉知らねーのかよー。山本直樹を見習えよー」


 あんまりな言い様。Cはついにブチキレ。


C「じゃあ、お前らも考えろよ! ボケー! 人にばっか頼んな! ボケー! 死ね! 何が、何が新機軸打ち出せ、だ! オレが、オレがいっつもどれだけ頭を悩ましてると思ってんだ! 別に意図したわけでもないのに、ちょっと気位の高い女キャラ書くと、担当に『ああ、これツンデレですか? 流行ってるんですよね(プゲラ)』なんて冷笑的な目で見られるつらさが分かるか!? ああ!? 分かるんか!? ……うっ」


 ばたり、と机に突っ伏すC。


A・B「ど、どうした!?」

 
 慌てて駆け寄る二人。動かないC。そして、


C「なんてことだ。死んでいる」
A・B「お前が言うんかい」
C「これこそまさにオチつかず」 
 などと。