ヤングガン・カルナバル ドッグハウス(著:深見真)を読む。


 この作品は、全体的に陰惨というか過激な雰囲気があって、内容も非常に暴力的なんですが、それに比べてもずいぶん健全だな、といつも読んでいて思います。
 似たようなポジションにあるガンスリンガーガールブラックラグーン潜在的不健康さと比べると、この差が気になる。どうしてなんだろうなあ……
 きっと、ヤングガンカルナバルの根底には、「悪い奴らは悪い」っていう非常にシンプルな価値観があって、あくまでもこの作品はその「正義」を前面に押し出したジュブナイルだからなんでしょうね。


 ガンスリンガーガールの不健全さは何から来ているかというと、何巻だったかな……確か橋を爆破する云々の話のなかで、金持ちの婆さんに対して、義体の説明があって、それに対する非難がましい視線を受けた局長が「お説教はやめてね」ってさらっと流しちゃうくだりが象徴的。ブラックラグーンにしても、「正しいかどうかは犬に食わせれば?」というバラライカのかっこいい台詞がありますね。
 これらは何を表しているかというと、「なんで正しいの?」「何で悪いの?」という問いかけから逃げてるんですね。パワーを行使する側が一切の回答を請け負っていないから。単に「趣味」「そうするしかなかった」で片付けられているということは、読者が期待する充足された正解の発表を拒んでいることに他ならない。
 それはマンガという媒体の問題でもあるし*1、そもそもそういうのがテーマじゃないからまったくかまわないんですが、まあ、なんとなくの気持ち悪さは読んでいて残ります。各キャラの行動理念が読者への問いかけに留まるんですよね。作者の中ではもちろん、明確な線引きはあるんでしょうけど。それが表に出てこない得体の知れなさがあるわけです。


 で、ヤングガンカルナバルの何が健全かというと、この作品は大きく分けて、主人公二人の視点からのそれぞれの物語で構成されていて、関わるキャラクタに少しずつスポットが当たっていく群像劇としてのスタイルをとっています。
 だから、同じ敵味方で好き嫌いの原則で活動するにしても、各キャラが何を「趣味」とするのが明白になったうえで思惑が錯綜して、ストーリィが展開していくので、わりかしどのキャラにも共感しやすいんですね。理解できないけど、その発想には共感できる。そして、根底にあるのは「悪いやつらは悪い」「何で悪いのか?」「そいつらはあまりにもゲスだから。ていうか、オレたちの周りに迷惑かけてるから」「だから、オレたちが正義の鉄槌を食らわす」
 これが大筋だから、非常にカタルシスがあります。
 まあ、今回の敵キャラである豊平の社長なんかはベタな権力者キャラで、あまりにもかませっぽい書割キャラだったからかもしれませんが。
 要するに、このへんは小説の旨味だよなあと思うのです。マンガとくらべて、事情の説明にスペースを大きく割くことができることのメリット。そして、そこにこの作者だけのテイストがきっちりと混じってる。
 だから、唯一、シリーズとして追いかけているライトノベルなんですよね。おもしろい。


 それにしても、この作品も、いつの間にか五巻ですか。コンスタンスに作品が発表されていて楽しめます。
 しかしながら、前回の引きに比べて、今回は、出来としてはこれまでに比べると、ちょっと落ちるかなあ、と思いました。
 全体的にストーリィをちょっと急ぎすぎというか、盛り上げどころでどうしてか流してしまってるというか。
 勿論、あいかわらず面白いと思うし、悪趣味な権力者センスと正義の殺し屋センスを真っ当に書いて、それがギャグやパロディにならないで、しっかりと成立しているのは、素晴らしいんですが。
 恐らくは、今後もシリーズとして続くことが前提になっていて、しかし、今巻で物語は一旦、終了することが前提になってるせいで、なにもかもが予定調和に見えちゃうせいですね。きっと。
 大抵のエンタメ作品って話が解決に向かうと落としどころが目に見えて分かるから、つまんなくなるからしゃーないのかな。


 それから、ヤンキーセンスがなりを潜めた代わりに、キャラの台詞の端々に出てくる引用が増えたのも邪魔くさいなあ、と思いました。
 こういうのは地の文でやれば、そんなに違和感もないんだけど、キャラに言わせると途端に、なにもかもが胡散臭くなる気がします。もし今後も続くなら、ちょっと考え物かもしれないなぁ……



 以下、笑ったポイント

  • 虚のセンスがヤンキーセンスだとついに自己言及されたこと。
    • さすがにダマスカススライドはやりすぎたと思ったんだろうか。
  • あまりにもオタク臭すぎる防衛庁長官とIT系フィクサーの会話。
  • そして、ツンデレ発言。遅い! 遅いよ! 書いているときは流行だったんだけど、もうネタとしてチープ化しちゃってるよ!

*1:いちいち何ページにも渡って、行動原理について悩まれたら読者としてはたまったもんじゃない