「零式」(著:海猫沢めろん)


 ああ、リアル・フィクションってのは、つまり村上春樹時空(なんだか行き詰ったのでセックスに逃げます。でも、人生ってそれだけじゃないかもね? という上半身を反らせつつ、諦め気味な態度)を殺す話なのね、とようやく理解できた話。そんなの超ステキ。


 いやー、もう全編、ヤンキーっすわ。族としてのヤンキーでもあり、アメリカンなヤンキーでもある。
 だから、狂った武士道とか出てくる(んで、またこれがカッコイイんだ、この頭の悪さ=まっすぐさが。文章もゴツいくせにノリノリだし)。正直、TWO突風かと思った。
 そこをガツンだ! みたいなノリのよさ。スピーディでグルーヴィ。実に気持ちいい。
 そういうハイな流れなんだけど、最後は作者がいうように「構造ミステリ」なので、スカされてしまうんだけど、閉塞感をぶっ壊したキャラは「そんなの知るか、バーカっ」て気にせず、勢いのまま、疾走=失踪して、目の前のページから消えて、読者の頭の中に滑り込む。ここでようやく、「なるほどこれがリアル・フィクションか」と実感できた。


 古川日出男の「サウンド・トラック」のようなディープではないけど、むしろトルクがある。
 だから、同じ「疾走小説」としてはこっちに軍配を上げたいと思う。そんな小説。