通勤三時間というのが美しい嘘であり、実質4時間かけて京都を行き戻り、朝は六時、夜は十二時という狂気の時刻を過ごして二週間、上役の連中がやってきたらふらっと刺してしまってもおかしくない精神状態で、半ば義務化した女の子との逢瀬を終わらせ近年まれにみるほどよごれた部屋のなかでようやっと一人になれて、西利の漬物をかじり番茶をすする早秋、夜の悲哀。


 自殺をするか鬱になるかできるひとがこれほどまでに羨ましいと思ったことはなく、そのどちらにも陥れない、中途半端にタフでまた、会社ってこんなもんだしなーとモノワカリのよい人間なので、楽しみは通勤途中に読む本だけってFU・ZA・KE・RU・NA!
 どう考えても現状は狂気の沙汰か、さもなくば狂気の沙汰。
 よくいって狂気の沙汰なので、もはやガマンならん。
 悪くても通勤30分以内の場所に引っ越すぞ! と一念発起。
 こちとら学生時代に講義をサボりまくって株式がツッコンどきゃ儲かった時代の波、いわゆるひとつのTUBEにノリに乗って、ジャンクフードとファーストフード片手にモニタにかじりついて貯めた200万近い資金があるんだぜ、うへへへへへ・・・・さー、引っ越すぜ、引っ越すぞ。そうと決まれば、物件情報を見るか。
 まず今より広い部屋でないとイヤだな。保証金50万? 引越し費用10万! ははは、そんなもん一括でポーーンだぜ、ポーンのポンポンポーンで支払って、ついでだからいくつか家具も新調するか、あー、そうだ。それかテレビでも買うか。いい加減、今のやつは大学入ったときに買ったから、32型でもブラウン管じゃでかいし地デジも始まるし、12月にはWiiのゲームもいいものがバラバラと出るし、そろそろハコマル*1も欲しいし、そうなるとリビングがでかくないとダメだけど、ともあれ、さあて引っ越すぜ。引っ越すぞ! 引っ越しだ! 一心不乱の引っ越しを――
 ――
 な、い。
 貯金残高が五桁を切ってる。
 一瞬、見間違えかと思い、数え直して、やはり数千円しか残っておらず、たまらず戦慄。
 

 な、ぜ?


 このとき私は初めて知り、驚いたのです。
 世にある真理とは時として、天啓のごとく降って、脳髄を貫く神秘の雷のごとく、人の卑小なる魂を打って、震わすということを。
 真実とは時としておぞましくすらあり、その知るも恐ろしい事物の本性を、ここで私が震えながら記述することは、すなわち


 なんとお金ってのは使えば使うほど減るモノだったのです。


 そそそんなばかな、一体、どこで使ったって、あああああああああ! 思い出すは遊蕩の日々。
 遊んだ、食った、読んだ、食った、買った、寝た。行った、遊んだ。打った。飲んだ。
 そ ん な ば か な。
 
 まー、マジメな話、月給20そこそこで暮らしていける限度をぎりぎり超えた生き方をしていたようで、この「ギリギリ」というところにぼくの人間としての器が知れるところなんですが、理論的にいって、わりと勝手気ままに生きていられる状態から、一点、これから生活がシビアになるという笑いのエッセンスが凝縮された衝撃の展開に、お前ら全員、笑えばいいと思うよ。

 

*1:XBOX360のこと