セルトビレッジ物語 


 慈善で偽善の法務家だった父さんが遺したのは書斎と一枚の地図にアパートの紹介状、それと16歳の僕が背負うにはかなり荷が勝つ借金だった。
 そしてそのうち、最終的に手元に残ったのは地図と紹介状で、後は野となれ山となれとばかりに僕は小さな家を放り出される。だから、向かうべきなのはセルトビレッジ。本当に残されたのは多分、そこしかないからだろうと思えたからだ。
 

 故郷を離れて3時間。半島最南端にその町はある。その町、つまりセルトビレッジはもともと、炎の岬と呼ばれ親しまれる夕日の美しい景勝地を中心に温泉郷として発達したが、ブリッジ設立後は階層都市化が進み、今ではC5-6/Fe56シャム建材と採光用プラーク体で形成された巨大な一個の突起物だ。

 全景一〇九層をことごとく縦に貫く中央駅、E39出口で降りて西階段そばの道路と渦状に隣接するロータリーでタクシーに乗り込む直前、バッグから取り出した地図に目を落とした僕の視界を横切るものが現れた。
 ふいに頬を電気がなでる感触にはっとさせられ、そこで僕はプラーク体のわずかにゆがんだ準透明の有機ディスプレイの向こう側で空を翔る星を見たのだ。
 それは星ではなく、ワイプ・ナンバーズの飛行体であることを僕は知っている。
 ワイプ・ナンバーズ。最古のビジランテ原理主義的な正義の履行者であり、最初の活動記録は78年前のサイコ・ジャック騒動の解決についての証言。宮内当局「かこてんら」の調査にもかかわらず、いまだ活動拠点は不明。構成メンバーは「1」から「6」とサポートメンバー「LN」の七名。だが、その各メンバーのプロファイルもまた不明。個性を不要とし、悪の根絶にむかってラジカルな正義をぶつけるセルトビレッジ最強のチームだ。
 青空の上を彗星のように滑っていく鋭い飛行体を呆けたように見つめる僕に向かって、タクシー運転手が声をかけた。
「ニイチャン、おのぼりさんだねェ……。――ま、はやく乗ンなよ。後ろがつかえていけねェから」
「え、あ、はい、すいませんもうしわけないです」
 いわれて、空の向こうに飛んだ気を取り戻した僕はすこしいらただしげに待つ後続の人に謝り、あわててタクシーに乗り込んだ。
 

 続く!? (ちゃんと書きます。はい