[30分粗書] テン・レスト 2


#前回に続き主人公について。思想的オリジンと家庭環境の大枠には触れた。純粋個としてヒーロー的背景について語る。

 僕は周囲に恵まれているのだと思う。父も母も、僕が「僕であること」について疑わない。だから、僕も僕が彼らの子供であることを疑わない。そうだ、僕は木の股から生まれたわけでも、空から落ちてきたわけでも決して、ない。
 ひどく疲れきった時々、僕は自分の出産ビデオを見る。姉貴の時にも両親が記念にと撮っていたビデオ。どうしてそんなものを残していたの? と訊けば、「これこそまさに一生に一度だろ?」父がいたずらっぽく得意げに笑う。
 少し荒れたビデオ画像。手術室、医師と看護師、若かりし両親がいて、そして僕が間もなく現れる。
 だから、産声。
 誕生の瞬間が、今。または僕の、直系の過去。
 血まみれの僕がそこにいて、両親に撫でられ抱き寄せられ、小さくぐずっている。弱く、脆く、なんでもない僕がそこに。
 だけど、声は大きく、大きくなり、
 ついに僕は、ここにいるぞと叫ぶ。
 僕が、いる。目の前に……そして、ここにも。
 こうして、自身のオリジナルを確かめ終えると、不思議と四肢に力が宿ってくる。それで世の中、万事オーケーだ。
 僕は家の窓を開けて、世界に飛び出す。

 2

「半径五百メートルの正義だ」と少女が笑う。
 僕の可聴範囲のことを指した皮肉なのは明らかだけど、次の瞬間の彼女の行動を止められなかったことの言い訳にはならない。
 よく晴れた昼下がり、見晴らしのいいデパートの屋上で、僕は彼女と出会った。


 −−……六月十三日。午前