「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」を見てきたよ。


 絶賛しかない。
 最近のハリウッドアクション物っぽいチャキチャキした編集を取り入れた得意のフリとスカシとか、「怪獣大暴れしてリアル軍隊が出張ってボコられたので、じゃあ、巨大ロボットに変身してシバくぜ!! ヒャッハー」とか、上映直後のスタジオカラーのロゴインでウルトラマンとか、庵野成分が満載で、フェチっぷりが全力すぎる。
 基本的にこの映画に何を期待して見に行くかと言われれば、それは単純なスペクタクルに他ならず、シナリオがどーだ設定がどーだなんだというストーリー的な考察はある程度、ライトノベル、少年漫画、神秘主義、SFスキーの遍歴を経過すると、シナリオの大枠は「キリストと偽神による悪の世をからめた構造ミステリを由来しつつ、いわゆる「存在の革命」へと誘導していくストーリー」であるのではないかと現状では思っており、この手の宗教的幻視をラストで乗り越えてくると嬉しいのだけど、実際どうなんだろうなあ、という点で関心を払っている程度で、それよりも、ギミックや背景、アートワークの鋭さが神がかって演出されており、そこがなにより素晴らしいわけで、たとえば、

 前回でも今回でも、同じエヴァを取り巻くディスコミュニケーションというテーマにおいてターニングポイントとして扱われている、三号機の酸鼻を極める事件の前提において、そこまでたっぷりと幸せを積み上げながら、その裏側ですでに我々が知っている「不幸の予兆」をフリとしてちりばめておいて、実はその予兆は「ハズレ」だったとスカしてしまい、もっと重大なインパクトを与える事態にもっていき観客を戦慄させ続けるところなんかは、シナリオの妙もさることながら、基本アッパーなまま絶頂と萎縮を繰り返す異様なリズム感があって、そこにスタッフのものすごい悪意がしたたっており、大変ナイスでございました。

 あと、前半部分のテンポの良さに驚く。新作になったことで、悩み、恐れることで毎回モタついた作劇の制約(それは前回のテーマでありまた制作上からも必要だったわけで)から解放されて、もうすげー状況が動く動く。
 またシーン毎の切り替えがいちいちツボを押さえており、キャラクタの芝居があるピークに達したら、そこで余韻をあまりもたせずにスパっと次のシーンに引っ張っていくことでドライブ感をキープしつつ、個々のシーンを切断することで抑揚も生み出している。

そもそも映画におけるカット割りや編集というのは不要な情報を刈り込んで、意味を作るためのものなのだけど、全身これ意味でのみシーンが作成されるアニメにおいてこそ、編集という技術は真価を発揮するのかもしれん、と本気で思ってしまった。

今回は作劇の大部分において、キャラに対してフォーカスされていて、シンジ、ミサト、レイ、ゲンドウ辺りの描き込みがまた一段と豊かになっており、それに対してアスカ、加持、新キャラであるマリは表層に留まっている。
この辺、切り捨てるところを切り捨てるトレードオフのおかげで前回感じたたるみが大分改善されたと思う。

 キャラに関しては、色々楽しませてもらっており、相変わらずエロいミサトだったり酒場で目のやり場に困ってる加持なんかも初めて好感が持てた。
 アスカはいろんな事に一生懸命なんだけどどこか空疎でなんとなく外側にぽつねんとたたずんでいるような有様なのが可愛らしい。トリックスター:マリは分かり易く口数の減らないガキンチョ陰謀家で好ましい。レイは、はやく人間になれそうでよかったね、という以外にはまあ、いつも通り。
 あと、ゲンドウちんは、自分で追っ払った息子がまっすぐな目をして帰ってきて、声を上げた瞬間にたじろぐ辺りがちょっと萌えだ。
 ゲンドウちん、ほんとダメなお父さん。そらエヴァの中のオカンもブチギレですよ。てめー、息子の仲間ぶっ殺しかけやがって、ダミーなんて受け付けてやらねーって怒られるに決まってる。

 それから、シンジのモテ男っぷりは異常なのだが、友達や家族や同居人のためにお弁当をつくってあげて、細やかなフォローもできる! 純朴な少年らしい恥じらい。お父さんに認めてもらいたいという一途な気持ち!
 なにこの胸キュン。
 そらモテるわ。これはもう、モテても仕方ない。
 バカな! あのシンジくんが、ここまで!


 「こんなこともあろうかと」言わんばかりに次々飛び出してくるギミック周りは今回も素晴らしく、シンジ君とミサトのユニゾンっぷりも随所でビシバシ決まっていて気持ちいい。しかし、あの都市の建築計画を出したヤツは頭がちょっとおかしいんではないか。どこからあんなノウハウを……


 さて、もはや恒例になりつつある最後半の詰め込み方は今回も尋常ではないほどテンション高く、鼻血ものだったわけだが、基本的に流れはすべて前作の踏襲というか、再演であって、金と手間のつぎ込み方もハンパない分、これから何回も見たくなるクオリティを保っている。
 
 パロディも忘れておらず、ぱっと目についたのは、第十の使徒が零号機をバックリいくところなんかは完全に寄生獣だったし、二号機はライダーキックだった。冒頭ではなぜかウルトラマンだし、ビーストモード発動して、ぶっ潰された二号機や覚醒した初号機はマンガ版、劇場版両方のナウシカ巨神兵を思わせる。


 さて、次回はラスト「Q」だけど、今回も確実に大ヒットになるだろうから、がっつり金と時間と手間をかけて、いいもんに仕上げて欲しいところである。
 全記録集とblu-ray、はやく出ないかなあ。