というほどでもなく群青の空を越えてに関する所感

  • 感想

 よくできているなというのが、第一印象です。構想をかなりキレイに折り畳んだというか。最後はちょっと特異なキャラ設定に頼ってしまった部分も鼻についたのですが(主人公のママンが出てくるシーンは全体として特に。彼女が聖人か君子のような扱われ方をされていることに対する説明がほとんどないのが際立ってて、他の部分に比べてごっそりと説得力がなかったように思えます)、全体としては、ほんとにうまくまとめたなあと感心しました。ストーリィも学園ジュブナイルとしての起伏に富み、一見、ノンポリ学生生活の背景には戦争があるから、常に緊張感をはらんでいて、とても上手い見せ方をしていたと思います。

 とにかく手放しで賞賛できる作品です。終わってみて、いい感じに余韻がありました。
 全体としてはそんな感じでしょうか。


 さて、ネタバレなぞを交えつつ、個々の話などをつらつらと。


※以下の文章にはネタバレを含みます。

  • 設定について

 おもしろいですよね。こういうの。円経済圏論の大元のネタは冷戦終了後、盛んに研究された二極システムと多極システムの対峙と最近のネット隆盛からくる個の時代についての先鋭化された資本主義についてだと思うんですが、この世界はそういう理論がセンセーショナルに認められたおかげで、内戦になっちまったぜ、という話。
 好きですよ。戦争。読み物としてはやっぱり楽しいですから。
 この作品の一連の設定で眼をひいたのは、まずなにより「その理論の信憑性をライターが完全にシカトしてる」ということでしょうか。
 ラストで主人公がその理論を事実上、否定してるのがその証拠なんですが、作者がでっちあげた理論を全面的に是としないで、ちゃんと相対化しているのは素直に好感が持てます。
 これを書いたライターさんはまず間違いなくリベラル志向だと思うのですが、その中でも国内でわりと悪い意味で使われている野放図なリベラリストというよりは、むしろ共同体主義を批判する側のリバタリアニズム信捧者だと思います。これは、リベラルが特に席巻した6、7、80年代世代独特の「父越え」を踏まえたうえでの作劇とも絡んでる部分で、やり方如何ではヘタすると大反発を食らいかねないはずなんですが、しっかり論理的に展開させて、随所にフォローを入れながら、書ききったのがやはり大きいと思います。
 その点、かなり学術肌な人なんだと思いました。それまで各論を色々持ち出してきて展開しておいて、否定して、最後の最後に自分の主張をずどんと持ってくる辺り、なんかのディベートか論述を見ているようで、かなり笑いました。


 あと、飛行機についてはグリペンはいまいち好きじゃないというか、僕はライトニングみたいな一撃必殺型バカコンセプトとかF-26みたいな未来型バカコンセプトの飛行機が好きなヘンな形状ミーハーなので、割と地に足ついた扱い方をされているグリペン単体でなく、ランニングコストを計算しながら走り飛ぶしょっぱい運用方針がむしろ好きでした。

  • 各パートとかキャラに関する感想羅列
  • ボブカットのおじょーちゃん
    • すばらしくロリでした。
  • ソバージュのおねーさま
    • すばらしくサドでした。
  • ショートのねーちゃんとロングのメガネっ子
    • あつかい悪っ! 特にメガネっ子。あれじゃメガネかけてる意味ねーじゃん。
  • 三十路すぎたセレブ
    • なぜだっ!? なぜ……信じられん! どれほど美しく年を重ねた女性でも、所詮、若さには勝てんのかっ! 個人的にこのキャラの扱いがもっとも残念。個別ルート作ってくれても、よかったじゃない? ゆきずりでもいいからっ!

 個人的には各キャラの役割がはっきりしてたので、よかったです。キャラがしっかりと立っていたというか。
 メイン三人で存分に戦争を書いてから、ジャーナリストと反政府ゲリラの二人に話を譲って、最後に作者の言いたいことをまとめるってのは、まあ、やっぱり考えてみると、これって学説争うときに作る論文のやり方ですよねえ。つくづくそう思います。
 そういえば、最初の三人で、負け戦で散っていく命を書いてたときはそういう作品なんだろうなと先入観があって違和感を感じなかったんですが、後ろ二人にルート移ってから、「うわー。もしかして、これ、実は七十年代残党の未練がましい説教なのか? だとしたら困った、作品としてまともな評価できなくなるなぁ」と思いました。
 まあ、結局、ラストでは、ちゃんと全部相対化して、主人公=作者のリクツを述べてたので、よかったです。
 ただ、テーマの落としどころを優先しすぎて、各キャラについてのラストエピソードがばっさり切られちゃっているのは残念でした。個人的には、それぞれのエピローグがあってもよかった、そのための多人称モノだったとも思うので。最後の切り方は嫌いじゃないんですが、書いている側はよくても情報が少ない読者側としては、なんだかなあともなっちゃうんじゃないでしょうか。他の人の感想とかまだ見てないので、よく分からないですけど。

 脇のエピソードはかなり好きです。タツの若菜への突撃とか、クーの箸が転がってもおもしろい年頃みたいなバカっぽい言動とか。後は実はものすごく副官っぽい忠則とか。

 後、教官との早漏キレのくだりはあんまりにも実感がこもりすぎていて、下種の勘繰りをしてしまいました。あそこでキレるのは、そこまでの言動からして、「ごめん」とうなだれ謝るよりも百倍ありえないと思います。どんな突発的遭遇戦なんだよ、と。
 もしかして、あれって……実体験?