なのか? まあ、どうでもいいや。唐突にナレーション!


「説明しよう! 萌えキーワード合戦とは!」


 萌えキーワード合戦とは、平野耕太の「進め以下略。」に描かれていた萌える言葉をポエムのようにしたためる路上ポエマーの話にインスパイヤされた、萌えるキーワードを組み合わせて言い合う遊びだ!
 この全方位的にキモイ遊びは、オタクの嗜みともいえる。アメリカの偉大なりし萌え研究の大家、アルバード・岡田*1も「正気にあっては大業ならずデース。MOE道はシグルイナリよー(超意訳)」という名言を残しているほど。
 その彼が推奨する遊びがこの萌えキーワード合戦、略して「M.K.W2(Moe Kitigai Word's War)」だ!


「説明しよう! 具体的な対決方法とは!」


 準備するものはただ一つ己の頭脳だけだ! 脳内に潜む無意識の怪物たちを解き放て!
 このゲームには最低三人のプレイヤーが必要となる。二人だと話が落ちないからね。
 ネットのブログへ「エムケーダブリュー2やろーぜ」「ロリ少女がヌメヌメの触手でしっちゃかめっちゃか」と吹っかけるなんて一方的かつ全方位的な迷惑行為をやってみて、最終的にはアク禁を喰らってみるのも一つの経験だゾ☆
 さて、ゲームの手順だが、まず手番のプレイヤーが萌えキーワードを解き放つ。対手はそのキーワードを聞き、三十秒の間を空けてから次の手番へと移り、一巡するとどれが一番萌えたかを判断する。なぜ、三十秒の間が必要なのかは妄想力豊かなオタクには言うまでもないことだね?


 では、実際にプレイしてみよう。


登場人物


A:精神的ヒッキー、SE、オタク
B:自称難波のナンパ師、元競馬誌編集、オタク
C:精神的虚弱児、貧乏モノカキ、オタク


A「さて、年の瀬も迫り、年末進行からいち早く抜け出したわけですが」
B「お前だけな。オレら忙しいっつーの」
C「まあ、オレんとこもだいぶ落ち着いたけどなあ」
B「バイトだるい。仕事止めるんじゃなかった」
A「相変わらず頭悪いのぅ」
C「アホだ。仕事コロコロ変えすぎ。もう二十五超えたってのによ。いい加減落ち着けよ」
B「うっせー! アホ」
C「んだぁ? 無職、殺すぞ?」
B「作家だって無職みてーなもんじゃねえか!? 殺すぞ? あ? てめーヤるぞ? 三文文士さんよぉ」
C「てめっ、ジョートーだよ! 表出ろオラァ!」


 睨み合う二人。Aが横合いから、


A「……あのさー、盛り上がってるとこ悪いんだけど、二十五といえばさー」
B「あん?」
C「んだよ?」
A「明日ってクリスマスじゃん。つーことはさ、今現在にイチャイチャチョメチョメしとるカポーが全国にいるわけだ。なのにさ、ヤロー同士が睨み合ってんのって、すげーむなしくない?」
B・C「……」
A「つーわけで、あれだ。萌えキーワード合戦いこーぜー!」
B「ええ!? 何その急展開!?」
C「相変わらず脈絡ねーなあ……」

 
 コタツを囲む三人。みかんの皮を剥きながら、一分間のシンキングタイム。


A「んじゃ、オレからな。で、B,Cと回ると」
B・C「おう。かかってこいや」

 
A「曖昧のまま、掛川天女するタイガーアイ先生」
 一番手やや良し。曖昧な虎眼がふんどし一丁で七丁念仏を抱えてウロチョロする恐怖。闇の中で浮かぶであろう引きつった笑みを想像するだに……
 Aは勝利を確信した。
B「ちっ。こざかしい路線で来やがって。まあ、いい。次はオレだ」


B「黒髪の美少女が、川のほとりで濡れた襦袢を肌に張り付かせている」
 二番手も搦め手でくる。ありきたりの萌えではなく、シチュエーションすら特定し、いわば文学的高尚さをまとった見事な業である。
 Aは勝利が揺らぐのを感じ、Bこそが勝利を感じとった。
 ここでCがにんまりと笑った。彼は言う。


C「男にだっこされて、思わず顔を赤らめる金髪ツインテールの小柄な女の子。しかも、靴が片方脱げかけ」
 直球ド真ん中である。まるで「せっかくだからオレは、王道を行くぜ」と宣告しているが如き言葉の強さ。この時、A、Bともに、今日の闘争が混迷を極めるであろう覚悟を完了した。


 一巡後、品評。


A「とりあえずBのは却下だな。黒髪の美少女は萌えつーか、フェティシズムじゃん」
B「アホか! んなこと言ったら、おめぇのコガン先生もそうだろうが! 萌えの定義言ってみろよ! ボケェ!」
A「Cの趣味も分からんよな。金髪美少女だと? てめえは川上稔か?」
C「はっ。ベタをネタに出来ない消費者のさもしさだな。どう考えたっておめえらの負けじゃねえか。なんでもディテールが命ですよ。ディテールが。プロなめんなよ」
B「はっ。おいおい。お坊ちゃん。今時ツンデレなんてもう流行らないぜ?」
C「んだと? ツンデレは神だろうが」
B「バカやろう! 毛唐の屈服をその概念に秘めるツンデレなんざ、自己の研鑽と謙遜こそを誇りとする日本人には合わねえよ。振り返ってどうだ? オレの黒髪美少女のデキはよ」
C「お前の場合は単に、昔、付き合ってたお嬢さんのことまだ引きずってるだけじゃん」
A「ギャクタマいけたかもしれんのになあ」
B「う、うるせえな!」


 こうしてグダグダになるのもまた、萌えキーワード合戦の特徴なのであった。



 ※この物語の舞台は虚構であり、人物、団体などはフィクションです。

*1:代表作「萌―永遠の春」「安全売春」「売られる女、飼う男」論文「虚構人物の配置とその解体」「人物背景の深読み―トラウマを超えて」いずれも文望書房発行