ラーゼフォン 時間調律師 (著者:神林長平) を読む

 傑作。これはすごい。
 ループしてデジタル(代替可能の存在)化してしまった魂の在り処を探る話だと解釈しました。
 似たようなシミュエート時空を舞台にした「ノエイン」が、シミュレートした側から見れば過去の存在はデジタル存在なのだが、結局のところ、全て相対化しているので「あなたと私はここにいる」と声をあげることで結果的に世界に変革を及ぼす話であり安心感があるのに対して、この作品は主人公の実存それ自体が変革されることで世界に変革を及ぼすので、主人公自身には魂の所在が疑いようもないけど、読者から見ると本当にそうなのか? と不安にさせられる部分がありました
 「完璧な涙」にしても「戦闘妖精雪風」にしても「過負荷都市」にしてもそうですが、作者は社会と自己とが乖離してしまった物語が上手いなあ。
 非常に贅沢なノヴェライズです。