アメコミ色々短評。


 最近、アメコミばかり読んでます。元々、X-menを集めている友人が一人いて、時々、シリーズを読ませてもらってたんですが、三ヶ月ぐらい前から自分で買うようになりました。
 すでに二十冊ぐらい買いましたが、どれも素晴らしい作品です。

  • V・フォー・ヴェンデッタ
    • アメコミってこんなにすごいのか! と思い知らされた作品。
    • 内容はものすごく政治的なんだけど、ぞっとするほど酷薄で残酷な物語がひたすら美しい。暗闘が繰り広げられる世界では善悪なんて問題にならず、徹底した生存競争と信念に付随する狂気が描かれ続ける。
    • スタイルとしては西部劇だけど、その場から去っていくのが用心棒ではなく、そこに生きていた人々である、という倒錯が面白い。素晴らしき哉、アナーキー
  • アストロシティ
    • アメコミをポストモダンから見直した作品。それだけだと、単にパロディに留まってしまうけど、「スーパーヒーロー」が当たり前にいる生活で一般人はどのように振舞うのか? を描いているのが面白い。
    • 一作目の「ライフ・イン・ザ・ビッグシティ」はオムニバス形式で、パロディ的な「スーパーヒーロー」*1の話に終始するのでいまいちだったけど、二作目「コンフェッション」がとにかく素晴らしい。
      • 基本骨子は「ダークナイト・リターンズ」で、つまり「ヒーローの復権」なんだけど、そこに父子の相克というテーマが宿っていて、見事な構成で「復活するヒーロー」を演出するのがたまらない。
  • バットマンダークナイト・リターンズ
    • さすが名作。フランク・ミラーの漢節が全開。
    • ヒーローがなぜ復活するのか? という動機がずっと描かれ続ける。悩めるヒーローってのは単に実存について悩むだけじゃないんだよ。どうやって、どの敵をシバキ倒すか? についても悩むんだよ! というヤクザ根性がすごい。
  • バットマンダークナイト・ストライク・アゲイン
    • リターンズの続編なんだけど、いまいち。「福祉に取り組むことになったスーパーヒーローは世界に貢献できるのか?」というテーマは面白いんだけどナア。
    • 今作ではスーパーマンの「偽善」問題に取り組んでるので、関心が薄かったせいかもしれません。地上に降りてきた神としてのスーパーマンをいじくりまわすにしては分量が足らなかったせいかも。リターンズと同じように「ヒーローの復権」がテーマなんだけど、大勢のヒーローを再生させたので、構成もとっちらかってる感じだったし。
  • マウス――アウシュビッツを生き延びた父親の物語
    • 続編、出してください。
    • めちゃくちゃ面白い。ピューリッツァ賞を獲ったのも納得の作品。

ーーどれほど高価なものを差し出しても、命が買えなかった陰惨なホロコースト時代と、1ドルを節制するために医者の診療を断ってしまう平和なとぼけた現代が並列していて、作者自身がそのギャップに苦しむのが克明に描かれているまさにマンガでしか成立しない距離感で書かれた物語。

  • サンドマン
    • 現在進行形で読んでいる作品。パンク風のキャラクタとファンタスティックな夢の世界が調和しているニール・ゲイマンの悪趣味がなにより素晴らしい。
    • ところで、邦訳の続きをだしてください。

 時間ができたら、それぞれまとまったレビューでも書きたいと思います。
 もし興味を持って読まれる方がいるのなら、お勧めは、「マウス」と「Vフォーヴェンデッタ」を挙げておきます。理由はただ一つ。邦訳として完結してるから。
 「サンドマン」もシリーズ半ばで邦訳が中止されてますし、Xメンを追いかけるなんて地獄の所業ですよ。「オンスロート」はドクター・ドームのツンデレっぷりを楽しむには最高なんだけどなぁ。
 それから「バットマンダークナイト〜」はリターンズが絶版で、ヤフオクなどで一万円前後が相場になってるので、ストライク・アゲインから入るのはちょっと息苦しいと思います。
 ていうか、転売屋はほんと死んでくだちい。あー、はやくウォッチメンの映画発表されて邦訳、復刊しねーかなぁ。相場が二万てなんだよ、二万て。
 

*1:スーパーマンワンダーウーマンがそのまま出てきたのにはさすがに失笑した